概要

1. 概要

アラジール症候群は、小葉間胆管減少症による慢性胆汁うっ滞に特徴的な肝外症状を伴う、遺伝性肝内胆汁うっ滞症である。従来の臨床症状による診断では、「肝臓、顔貌、心血管、眼球、椎体の全てに異常が見られる場合を完全型アラジール症候群、肝臓を含めて上記の3症状を伴う場合を不完全型アラジール症候群」という。近年は、これらの臨床症状を全ては満たさないが、特有の遺伝子異常を伴う場合も本症として報告されている。

2. 原因

原因遺伝子としてJAG1が1997年に、Notch2が2006年に、それぞれ発見され、現在ではJAG1の異常によるアラジール症候群1型とNotch2によるアラジール症候群2型が区別されるようになった。JAG1とNotch2はともに、Notchシグナル伝達系を構成し、この遺伝子異常が胎生期の発生過程で何らかの影響をきたすことが原因と考えられているが、病態の詳細は不明である。

3. 症状

乳児期から始まる黄疸が主要症状であり、しばしば胆道閉鎖症や新生児肝炎と鑑別を要する。非典型例では、黄疸がなく、先天性心疾患や腎障害が前景に立つ場合がある。特に、本症2型では重症腎障害が特徴的とされる。心血管系の異常としては末梢性肺動脈狭窄が、椎体異常では前方弓癒合不全が、眼球では後部胎生環が特徴的な異常である。さらに、発育・発達障害、性腺機能不全、消化管の異常などを伴う場合がある。

4. 治療法

慢性の胆汁うっ滞や成長障害に対して、脂溶性ビタミンや中鎖脂肪酸(MCT)の補充など栄養療法を長期に継続する。痒みや高脂血症に対して陰イオン交換樹脂や脂質降下薬が使われる場合がある。胆汁うっ滞性肝硬変に進行したり、痒みなどにより著しくQOLが低下した場合には肝移植が行われる。重篤な心疾患については外科手術が、腎不全については透析や腎移植が必要なことがある。

<診断基準>

1. 主要な症候

  1. 肝病理所見による小葉間胆管の減少
  2. 臨床所見
    1. 胆汁うっ滞
    2. 心臓血管奇形(末梢性肺動脈狭窄が最も特徴的所見である)
    3. 骨格の奇形(蝶形椎体が特徴的所見である)
    4. 眼球の異常(後部胎生環が特徴的所見である)
    5. 特徴的な顔貌

2. その他の症候

腎臓、神経血管、膵臓などにアラジール症候群に特徴的な異常の認められる場合も本症の診断に重要な所見である。

3. 参考事項

  1. 常染色体優性遺伝形式の家族歴
    血族内にアラジール症候群と診断された者がおり、その遺伝形式が常染色体優性遺伝に矛盾しない。
  2. 遺伝子診断
    JAG1遺伝子、またはNOTCH2遺伝子に変異を認める。

4. 診断の判定基準

以下に挙げた2つの場合のいずれかを満たす場合を、アラジール症候群と診断する。

○典型例:
1の(1)を満たし、かつ、(1)の①から⑤のうち、3項目以上を満たすもの。
○非典型例、または変異アリルを有するが症状の乏しい不完全浸透例:
  • 1または2に挙げたアラジール症候群に特徴的な症候が、1項目以上見られる。
  • 常染色体優性遺伝に矛盾しない家族歴がある。
  • 遺伝子診断で上記の所見が認められる。

上記の3項目のうち、2項目以上を満たすもの。