概要
1. 概要
先天性の肝内胆管拡張症であり、胆道系と交通のある肉眼的な多発性・分節状・嚢状の肝内胆管拡張が特徴である。 欧米でカロリ病は先天性肝線維症を伴わないものを指し、伴うものはカロリ症候群として区別されている。 しかし本邦でカロリ病として報告されるものはカロリ症候群が大部分であり、現在ではカロリ病は先天性肝線維症と同一のスペクトラムに属する疾患であると考えられている。本症の拡張肝内胆管は逆行性胆道感染症をきたしやすく、しばしば難治である。また肝線維症に関連して門脈圧亢進症をきたしやすく、食道静脈瘤破裂など消化管出血を合併する。
2. 原因
原始胆管板の形成不全(ductal plate malformation)が関与するとみられている。 その詳細は不明だが、既知のカロリ病ないしカロリ症候群をきたす背景疾患として多発性嚢胞腎、ネフロン癆、Joubert症候群、Jeune症候群などが報告されている。 それらの疾患はその責任遺伝子産物がいずれも細胞表面にある非運動性の一次繊毛(primary cilia)基部のbasal bodiesに局在し一次繊毛の機能に関与していると推測され、繊毛病(cilinopathy)に包括される疾患として分類されている。 カロリ病でも一次繊毛を構成する分子の異常が、発症に関与している可能性が推測されている。
3. 症状
肝症状が現れる時期は幼児期から60歳代まで幅広い。肝腫大がみられる。難治性胆管炎では胆汁うっ滞、腹痛、不明熱、肝膿瘍、敗血症、成長障害、肝の合成能低下などをみる。門脈圧亢進症では悪化とともに吐下血、肝肺症候群、肝性脳症などをみる。若年のうちから胆石、胆管細胞癌の合併に注意を要する。肝肺症候群を合併すると酸素飽和度低下、頻脈、労作時の多呼吸、バチ状指などをみる。
肝症状以外には腎病変・眼病変・中枢神経病変などによる症状がみられる。
4. 治療法
- A. 保存的治療
- 逆行性胆管炎に対する抗菌剤治療、門脈圧亢進症に対する食道静脈瘤治療、肝性脳症や門脈肺高血圧症に対する薬物療法が行われる。
- B. 外科治療
- 難治性胆管炎をきたす部分について部分肝切除が行われ、肝切除では除ききれない場合、あるいは、内科的治療に不応な胆道感染が存在する場合や反復する吐下血で内科的治療に不応な場合は、肝移植を考慮する。
5. 予後
門脈圧亢進症・肝肺症候群・難治性胆管炎などの合併症が予後に影響するとみられる。
また胆管細胞癌を合併することが知られている。
<診断基準>(仁尾班による)
A. 主要症状および所見
- 肝腫大をみることが多い。
- 胆管炎に伴う発熱・腹痛をみることが多い。
- 胆石に伴う腹痛・黄疸をみることがある。
- 門脈圧亢進症に伴う吐下血、肝肺症候群、門脈肺高血圧症、肝性脳症をみることがある。
B. 画像検査所見
- 画像検査で肝内胆管の嚢胞状拡張をみる。多くは多発性分節状である。
- 造影CTで拡張胆管内に微小な点状の造影効果 (central dot sign) をしばしば認める。 MRI、MRCPではcentral flow void sign である。ほか画像検査で肝内結石・胆石をみることが多い。
C. 病理所見
- 組織学的にも胆管拡張がみられ、その胆管内に球状突起物や架橋構造をみることが多い。しばしばductal plate malformationをみる。
D. 鑑別診断
画像検査または病理所見で「多発性肝嚢胞」を除外する(難治性疾患克服研究事業「多発性肝のう胞症に対する治療ガイドライン作成と資料バンク構築」班「多発性肝嚢胞診療ガイドライン」も参照する)。
指定難病(告示番号94)「原発性硬化性胆管炎」を所定の診断基準によって除外する。
<診断方法>
Aに挙げる症状のいずれかがみられ、B1が示され、AおよびBと矛盾せずDが除外されたものを本症とする。Cは必須ではないが矛盾しないことが必要である。