概要

1. 概要

先天性胆道拡張症とは、総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常で、膵・胆管合流異常を合併するものをいう。ただし、肝内胆管の拡張を伴う例もある。

総胆管を含む肝外胆管および肝内胆管が限局性に拡張し、全例に膵・胆管合流異常を合併する戸谷Ia型、Ic型とIV-A型の先天性胆道拡張症を、狭義の先天性胆道拡張症と定義した。また、Caroli病、Choledochocele、戸谷分類のIa型,Ic型,IV-A型以外で膵・胆管合流異常のない胆道拡張症、などは狭義の先天性胆道拡張症に含めないことにした。

先天性胆道拡張症では、胆管拡張やしばしば合併する総胆管の十二指腸側の狭小部(narrow segment)によって胆汁の流出障害が起きる。また、合併する膵・胆管合流異常では、共通管が長く、乳頭部括約筋作用が膵胆管合流部に及ばないため、膵液と胆汁が相互に逆流する。膵液胆道逆流現象により、胆道内に流入した膵酵素は胆汁中のエンテロキナーゼにより活性化し、胆道上皮の障害、再生を繰り返すことで遺伝子変異を生じ、発癌に至ると推測されている。また、胆汁膵管逆流現象による胆汁の膵管内への逆流が生じているのは明らかであり、膵炎発症への関与が疑われている。

先天性胆道拡張症の戸谷分類(胆と膵 16:715-717, 1995より引用)

図1:先天性胆道拡張症の戸谷分類(胆と膵 16:715-717, 1995より引用)

2. 原因

胆道拡張は原腸の内腔形成機序に関連しているとする説が有力で、膵・胆管合流異常の発生機序は解明されていないが、胎生4週頃までに起こる2葉の腹側膵原基から形成される腹側膵の形成異常とする説が有力である。

3. 症状

日本膵・胆管合流異常研究会の1990年から1999年までの10年間に全国集計で得られた1,627例の検討において、主な症状は小児先天性胆道拡張症では86.1%にみられ,主なものは、腹痛(81.8%)、嘔気・嘔吐(65.5%)、黄疸(43.6%)、発熱(29.0%)、である。

4. 治療法

症状の有無にかかわらず、診断されれば手術的治療が必要で、拡張胆管切除+肝管空腸吻合術(いわゆる“分流手術”)の適応となる。

また、拡張胆管切除術後の胆管炎・肝内結石に対しては抗菌薬投与や胆道ドレナージ、利胆薬の服薬、急性膵炎については急性膵炎診療ガイドラインに従った治療(抗菌薬投与、疼痛管理、多価酵素阻害薬投与など)が、慢性膵炎については疼痛管理等の慢性膵炎診療ガイドラインにそった継続的治療が行われる。

5. 予後

小児(約28〜32%)は成人(約9%)に比べ急性膵炎の術前合併が多いことが報告されており、発生要因として、共通管の拡張、膵管の拡張、膵頭部膵管の複雑な走行異常、protein plugなどが考えられている。また、臨床的に一過性のものや、軽症で再発性のものが多いなどの特徴がある。また成人24.1%、小児9.0%の症例に胆道結石が認められる。最も問題となる胆道癌合併頻度は、成人先天性胆道拡張症21.6%、と非常に高率で、局在の割合は先天性胆道拡張症では胆囊癌62.3%、胆管癌32.1%である。分流手術が施行されなければ、生涯にわたって胆道癌の発癌が極めて高率である。小児例における胆道癌合併は8例(胆管癌7例、胆囊癌1例)報告されている。

成人期を含めた長期療養という観点からは、拡張胆管切除手術が施行された場合においても胆管炎を繰り返したり、肝内結石を形成する例が2.7〜10.7%において見られ、このような例においては前述した内科的治療に加え、胆管形成術や肝切除、あるいは肝移植等の治療が必要となる。肝内結石や膵石あるいは胆管炎等の合併症が初回手術後10年程を経た長時間をかけて発生することが多い。また本症は3:1〜4:1で女性に多い疾患のため、妊娠・出産を契機に胆管炎等の合併症を来す事が少なくない。

また、拡張胆管切除手術後においても胆管癌が0.7〜5.4%において生じている。

さらに、実態調査として、日本膵・胆管合流異常研究会では、1990年から症例登録を行っており、現在までに約2,800例を登録している。これらの症例を2012年に988例で追跡調査を行った所、拡張胆管切除手術後にも、胆石(35例)、肝障害(14例)、胆管炎(54例)、膵石(10例)、膵炎(18例)を併発し治療を要しており、重症度2以上の症例が131例 (13.3%)存在し、術後においても長期療養が必要と考えられる。

<診断基準>

以下の定義に従い、診断基準に当てはまるものを狭義の先天性胆道拡張症と診断する。

定義

先天性胆道拡張症とは、総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常で、膵・胆管合流異常を合併するものをいう。ただし、肝内胆管の拡張を伴う例もある。

病態

胆管拡張と膵・胆管合流異常により、胆汁と膵液の流出障害や相互逆流、胆道癌など肝、胆道及び膵に様々な病態を引き起こす。

診断基準

先天性胆道拡張症の診断は、胆管拡張と膵・胆管合流異常の両者が画像または解剖学的に証明された場合になされる。ただし、結石、癌などによる胆道閉塞に起因する後天性、二次的な胆道拡張は除外する。

1. 胆管拡張の診断

胆管拡張は、胆管径、拡張部位、拡張形態の特徴を参考に診断する。

1) 胆管径

胆管径は、超音波検査、MRCP、CT(MD-CTのMPR像など)などの胆道に圧のかからない検査によって、総胆管の最も拡張した部位の内径を測定する。

2) 拡張部位

胆管拡張は、総胆管を含むものとする。また、総胆管を含む肝外胆管の拡張と同時に肝内胆管が拡張している例も、先天性胆道拡張症に含める。

3) 拡張形態

拡張形態は、嚢胞型と円筒(紡錘)型の2つに分けられる。

狭義の先天性胆道拡張症は、戸谷分類(図1)のIa型、Ic型、IV-A型で表現され、以下のような胆管の形態的特徴を参考にする。

  1. 拡張した総胆管の十二指腸側に狭小部がみられる。
  2. 拡張が総胆管から三管合流部を越えて肝臓側に及ぶ場合は、胆嚢管合流部の起始部が限局性に拡張している。
  3. 肝内胆管が限局性に拡張している場合は、肝門部に相対的狭窄がみられる。
  4. 肝内胆管の拡張部とそれより上流の胆管とは著明な口径差がある。

2. 膵・胆管合流異常の診断

膵・胆管合流異常の診断は、先天性胆道拡張症の診断に必須であり、膵・胆管合流異常の診断基準2013に準拠して診断する。

膵・胆管合流異常とは、解剖学的に膵管と胆管が十二指腸壁外で合流する先天性の形成異常である。膵・胆管合流異常の診断には、画像、または解剖学的検査によって、膵管と胆管が異常に長い共通管をもって合流するか異常な形で合流すること、または膵管と胆管が十二指腸壁外で合流することを確認する必要がある。画像診断には、直接胆道造影(ERCP、経皮経肝胆道造影、術中胆道造影など)や、EUSまたはMD-CTのMPR像などを用いる。また、高アミラーゼ胆汁は、膵・胆管合流異常の存在を強く示唆しており有力な補助診断となる。

参考

次のような所見は、先天性胆道拡張症の存在を疑わせるので診断の参考となる。

  1. 出生前超音波検査による肝下面の嚢胞性病変
  2. 新生児期の直接型優位の間歇性黄疸
  3. 小児期から繰り返す腹痛発作
  4. 小児の腹痛時の高アミラーゼ血・尿症
  5. 小児の胆道穿孔による胆汁性腹膜炎

<鑑別診断>

鑑別すべき疾患は、後天性の胆管拡張、Caroli病、Choledochocele、戸谷分類のIa, Ic, IV-A以外の型、ならびに胆管拡張を伴わない膵・胆管合流異常である。乳頭部狭窄、総胆管結石、腫瘍等に伴う後天性の胆管拡張では、胆汁の通過障害に伴う胆汁うっ滞を惹起し、それによる黄疸など先天性胆道拡張症と類似した臨床症状を呈することがあるが、後天性の胆管拡張は膵・胆管合流異常を伴わないため、その存在の有無を検索する事により鑑別可能である。Caroli病は肝内胆管の多発性拡張を特徴とし、肝外胆管の拡張や膵・胆管合流異常を伴わない。Choledochoceleは十二指腸乳頭部近傍に出現し、胆管拡張や膵・胆管合流異常を伴わないことより鑑別可能である。また、胆管拡張を伴わない膵・胆管合流異常との鑑別には胆管径の基準値(表1)を参考にする。

表1. 胆管拡張の年齢別参考値

年齢 基準値 上限値 拡張の診断
0歳 1.5mm 3.0mm 3.1mm以上
1歳 1.7mm 3.2mm 3.3mm以上
2歳 1.9mm 3.3mm 3.4mm以上
3歳 2.1mm 3.5mm 3.6mm以上
4歳 2.3mm 3.7mm 3.8mm以上
5歳 2.4mm 3.9mm 4.0mm以上
6歳 2.5mm 4.0mm 4.1mm以上
7歳 2.7mm 4.2mm 4.3mm以上
8歳 2.9mm 4.3mm 4.4mm以上
9歳 3.1mm 4.4mm 4.5mm以上
10歳 3.2mm 4.5mm 4.6mm以上
11歳 3.3mm 4.6mm 4.7mm以上
12歳 3.4mm 4.7mm 4.8mm以上
13歳 3.5mm 4.8mm 4.9mm以上
14歳 3.6mm 4.9mm 5.0mm以上
15歳 3.7mm 5.0mm 5.1mm以上
16歳 3.7mm 5.1mm 5.2mm以上
17歳 3.7mm 5.2mm 5.3mm以上
18歳 3.8mm 5.3mm 5.4mm以上
19歳 3.8mm 5.4mm 5.5mm以上
20歳代 3.9mm 5.9mm 6.0mm以上
30歳代 3.9mm 6.3mm 6.4mm以上
40歳代 4.3mm 6.7mm 6.8mm以上
50歳代 4.6mm 7.2mm 7.3mm以上
60歳代 4.9mm 7.7mm 7.8mm以上
70歳代以上 5.3mm 8.5mm 8.6mm以上

(胆と膵 35:943-945, 2014より引用)

<診断のカテゴリー>

先天性胆道拡張症の診断は、胆管拡張と膵・胆管合流異常の両者の存在を満たした場合とする。ただし、結石、癌などによる胆道閉塞に起因する後天性、二次的な胆道拡張は除外する。