概要
1. 概念・定義
遺伝性の非抱合型高ビリルビン血症は、ビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)によるグルクロン酸抱合が障害されて起きるものと、グルクロン酸抱合後の肝細胞内での輸送の異常によって起きる者がある。前者のうち、血清ビリルビン値が30-50(mg/dl)と高値を示すものがクリグラー・ナジャール症候群(CN)typeⅠ、6-20(mg/dl)であるものがtypeⅡ、1-5(mg/dl)程度までであるものがGilbert症候群(GS)である。
2. 疫学
CNはごく稀な疾患であり、重症型のtypeⅠは1,000万人に1人程度と低頻度で、日本人での報告は4例あったという。一方GSは人口の3.0-8.6%と高頻度である。
3. 病因
寿命に至った赤血球などからヘムが分解され排泄される過程でビリルビンを生じる。哺乳類ではビリルビンの80%がヘモグロビンに由来するという。ビリルビンは疎水性が高く、肝細胞の小胞体にあるビリルビンUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT1A1)によってグルクロン酸抱合されて水溶性となって肝細胞外に排泄され胆汁となる。
CNではUGT1A1の活性欠損または低下によりグルクロン酸抱合されず胆汁から排泄されなくなった非抱合型ビリルビンが血中に増加する。非抱合型ビリルビンは有害で脂質豊富な中枢神経系に沈着し大脳基底核の黄染をきたし、核黄疸に至る。
4. 症状
核黄疸(ビリルビン脳症)の症状は筋緊張低下、傾眠傾向、後弓反張、落陽現象、緩慢なMoro反射、甲高い泣き声、けいれんなどである。慢性化すれば筋緊張亢進、アテトーゼ、感音性難聴などが現れる。
(非抱合型の)ビリルビン値が35(mg/dl)を越えた10例中9例で死亡または重篤な後遺症をみた報告がある一方、20(mg/dl)未満ではほとんど異常を認めない。
5. 治療
重症型であるCN typeⅠでは申請時期の高ビリルビン血症を光線療法及び交換輸血で乗り切ったのち、光線療法を継続し可能であれば肝移植を受ける。CN type ⅡないしGSは申請時期の高ビリルビン血症を光線療法などで治療した後は一般に治療を要さない。ただしCN type Ⅱでもフェノバルビタールの持続的内服を要する例がある。
非抱合型ビリルビンはアルブミンに結合しやすく、中枢神経毒性と血清ビリルビン/アルブミン比が関係する。CN type Ⅰではアルブミン結合能の高いセフトリアキソン、イブプロフェンなどの薬物は投与を避ける。
6. 予後
CN type Ⅰの黄疸発作は予後不良であり、集中的な治療と発作回避が重要である。それ以外の予後は良い。
7. 成人期以降の注意点
肝移植例は終生にわたる免疫抑制両方を要し、感染に関連した拒絶や悪性新生物の発生に注意を要する。成人への移行期に免疫抑制両方を理解し受入れ、自立して受診を継続できるよう援助・指導する必要がある。
非肝移植例は診断と光線療法などの対処療法を理解し受入れ、受診を継続できるよう援助・指導する必要がある。
<診断基準>
クリグラー・ナジャール症候群の診断基準
A. 主要症状および所見
- 新生児期から持続する間接型高ビリルビン血症がある。
- 皮膚・結膜などに黄疸が見られる。
B. 他の重要な臨床所見及び検査所見
- 核黄疸またはビルビリルビン脳症による活気不良、Moro反射消失、意識障害、落陽現象、けいれんなどの神経症状がある。
- 間接型ビリルビンは20mg/dl以上に達する。
- 肝機能検査は正常化、高度の黄疸と不釣り合いである。
- 臨床的に溶血が除外される。
- フェノバルビタール負荷試験で黄疸が軽減しない
- ビリルビンUDP-グルクロン酸移転酵素(UGT1A1)遺伝子検査によるCrigler-Najjar症候群を引き起こす変異が検出される。
※Aの1と2,Bの3と4に該当し、Bの1または2をきたす恐れがある場合を本症とする。5による型判別診断を行う。6を参考所見とする。