1) 概要

a. 定義

嚢胞性線維症(cystic fibrosis:CF)は、cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)の遺伝子変異を原因とする全身性の常染色体劣性遺伝性疾患である。気道内液、腸管内液、膵液などの全身の分泌液/粘液が著しく粘稠となり、管腔が閉塞し感染し易くなる。典型的な症例では、胎便性イレウスを起こし、膵臓が萎縮して膵外分泌不全による消化吸収不良を来たし、呼吸器感染を繰り返して呼吸不全となる。汗中の塩化物イオン(Cl-)濃度の高値は、CFに特徴的な所見であり、診断に用いられる。

b. 疫学

CFの頻度は人種によって大きく異なる。ヨーロッパ人では、出生約3,000人に1人が発症する最も多い遺伝性疾患であり、25~30人に1人が変異CFTR遺伝子の保因者(キャリア)である。日本を含めてアジアでは極めて稀である。難治性膵疾患に関する調査研究班により、1994年より5年毎に全国疫学調査が実施されており、2009年の調査では、日本におけるCFの受療頻度は約150万人に1人と推計された。また、1990年~2009年に39名の患者さんが生まれており、この間の出生数より日本におけるCFの出生頻度は約59万人に1人と推計された。

c. 病因・病態

CFTR遺伝子は第 7染色体上に位置し、27のエクソンをもつ約230kbの遺伝子である。CFTRタンパクは1,480アミノ酸残基より構成され、全身の上皮膜細胞の管腔膜に発現する主要なcAMP依存性陰イオンチャネルである。CFは、CFTR遺伝子の両アレルに遺伝子変異がありCFTRチャネル機能が5%以下にまで障害された場合に発症する。片方のアレルのみに変異がある保因者(キャリア)はCFを発症しない。

CFTRチャネル機能が障害されると、気道、腸管、膵管、胆管、汗管、輸精管の上皮膜を介するイオンと水の輸送が障害される。そのため、管腔内の粘液/分泌液が過度に粘稠となり、管腔が閉塞したり、感染し易くなる。典型的な症例では、生直後に胎便性イレウスを起こし、その後、気道感染症を繰り返し、膵外分泌不全による消化吸収不良を来たす。副鼻腔炎と男性不妊を高率に合併する。発汗時に汗が汗管を通過する際のCl-の再吸収が障害されるため、Cl-濃度の高い汗が排出され、確定診断に用いられる。

酸イオン(HCO3-)と水の分泌を担っている。CFでは、CFTRの機能障害によりアルカリ性の溶液分泌が失われるため、タンパク濃度の高い酸性の腺房分泌液で膵管が閉塞する。そのため、腺房細胞が障害され、膵由来のタンパクが血中に逸脱する。この変化は胎内で始まり、出生時から血中トリプシン免疫活性が高値を示し、欧米では新生児スクリーニングに用いられている。その後次第に膵実質が脱落し、小葉内および小葉間のリンパ球浸潤を伴う線維化が進行する。膵外分泌不全(膵酵素補充療法を必要とする)にいたる場合(約80%)は、経過の後半には、膵実質が線維組織あるいは脂肪組織に置き換わりランゲルハンス島が残るという組織像を呈する。典型的な症例では2歳頃に膵外分泌不全の状態になる。

出生時には肺病変は見られないが、乳児期に胎便性イレウスで死亡した患児では、末梢の気管支が粘液で閉塞し、その上流の気腫が見られることから、肺病変の形成は出生後早期に始まると考えられている。細気管支に貯留した粘稠度の高い粘液に病原細菌が定着すると細気管支炎や気管支炎を繰り返し、徐々に呼吸不全となる。

CFTRには1,900種類以上の遺伝子変異と多型がある。p.Phe508del変異(F508del)は、ヨーロッパ人のCFアレルの約70%に見られるが、他の変異は多いものでも1%を超える程度の頻度である。CFTR変異は、未成熟終止コドンが現れてCFTRタンパクが合成されないClass I、CFTRが細胞膜に移行しないClass II(F508delが含まれる)、CFTRが細胞膜に発現するが活性化されないClass IIIあるいはCl-の透過性が下がるClass IV、スプライシング変異により正常のCFTRの発現量が減るClass Vに分類される。Class I~IIIはCFTR機能障害が重く、Class IVとVは障害の程度が軽い。両方のアレルに重度(Class I~III)の変異を持つ重症例では、2歳頃に膵外分泌不全の状態になることが多い。重度(Class I~III)の変異と軽症(Class IV、V)の変異を1つずつ持つ軽症例では、通常膵外分泌不全に至ることはない。膵外分泌不全の有無はCFTR遺伝子変異から見た重症度との一致率が高い。しかし、同一のCFTR遺伝子変異を持つ症例でも呼吸器症状の重症度は様々であり、CFTR以外の遺伝子と環境因子の関与が大きいと考えられている

CFTR遺伝子変異は、人種によって変異のスペクトルが異なり、日本人由来のCFアレルにF508delを始めとするヨーロッパ人タイプの遺伝子変異が検出されることはない。日本人由来のCFアレルでは、極めて稀な変異が多く、しばしば新規変異が検出されるため、全エクソンのシーケンス解析が必要である。また、数エクソンが欠損する変異が見られるため、ゲノムリアレンジメントの有無を併せて解析する必要がある。

d. 症状

  1. 胎便性イレウス(メコニウムイレウス)は、国内のCF患者さんの30~40%に見られ、生後まもなく発症する。粘稠度の高い粘液のために胎便の排泄が妨げられ、回腸末端部で通過障害が生じる。
  2. 汗への塩分喪失による代謝性アルカローシスが、国内の患者さんの約30%に見られる。偽性Bartter症候群など電解質異常を主症状として発症する幼児例もある。
  3. 慢性的な気道感染症と副鼻腔炎は、ほぼ全例に見られる。出生後、細気管支に粘稠度の高い粘液が貯留し、病原細菌が定着すると細気管支炎や気管支炎を繰り返し、徐々に呼吸不全となる。膿性痰の喀出、咳嗽、呼吸困難を来す。緑膿菌の慢性感染が、重症度と予後に影響する。ムコイド型緑膿菌の持続感染が特徴であり、多量のムコ多糖体によって局所にバイオフィルムが形成されると、免疫機構が働きにくく抗生剤が作用しにくい。典型的な画像所見は、小葉中心性に散布する小粒状影、気管支拡張、斑状の濃度上昇、無気肺であり、肺内全域に両側性、びまん性に拡がる。嚢胞性線維症の死因の約95%は呼吸不全である。
  4. 膵外分泌不全は約80%の患者さんに見られる。典型的な症例では2歳頃に膵外分泌不全の状態になり、消化吸収不良により、脂肪便、栄養不良、低体重、成長不良を来す。膵の画像所見としては、脂肪置換を呈する症例が多く、萎縮、嚢胞、膵石、lipomatous pseudohypertrophyなど様々な所見が見られる。嚢胞は通常1~3mmと比較的小さい。
  5. 糖尿病は、後期の合併症である。米国では、18歳以上の患者さんの約35%が糖尿病を合併している。膵実質の脱落が進行し、ランゲルハンス島の硬化とβ細胞数の減少が見られ、膵性糖尿病を発症する。インスリンの欠乏に伴い、体重減少と肺機能の悪化が進む。国内のCF患者さんでは、糖尿病の合併は稀である。
  6. 膵外分泌不全を伴わないCF患者さん(約20%)のうち、5人に1人が経過中に急性膵炎を発症する。
  7. 胆汁うっ滞型肝硬変が、国内のCF患者さんの約20%に見られる。
  8. 男性患者さんのほぼ全例が、先天性両側精管欠損による不妊である。

e. 治療

  1. 現在のところ根本的な治療法は無く、呼吸器感染症と栄養状態のコントロールが中心となる。欧米で大きな治療効果があった3剤、高力価の消化酵素薬(パンクレリパーゼ腸溶剤、リパクレオン®)、気道内の膿性粘液を分解するドルナーゼアルファ吸入液(プルモザイム®)、トブラマイシンの吸入薬(トービイ®)が、2011年以降に相次いで国内販売が始まった。
  2. 胎便性イレウスに対しては、高浸透圧性造影剤(ガストログラフィン)の浣腸が行われるが、手術が必要となる場合も多い。
  3. 呼吸器症状の治療は、肺理学療法、去痰薬、気管支拡張薬の組み合わせにより喀痰の排出を促進させ、呼吸器感染を早期に診断し適切な抗菌薬を使うことが基本である。ドルナーゼアルファは、気道内の膿性粘液中のDNAを分解することにより喀痰を排出し易くする。高張食塩水(6~7%)の吸入も喀痰を排出し易くする。喀痰培養で緑膿菌が検出された場合には、トブラマイシンの吸入薬あるいはアジスロマイシンの内服薬を用いる。ドルナーゼアルファ、トブラマイシンいずれも、メーカーが推奨するネブライザーを使う必要がある。
  4. 膵外分泌不全には膵酵素補充療法を行う。高力価のパンクレリパーゼ腸溶剤が使われることが多い。

f. ケア

呼吸器感染を予防が最も重要である。①ドルナーゼアルファあるいは高張食塩水を吸入して喀痰を柔らかくする、②喀痰を排出する、③トブラマイシンを吸入する、の順番で行う。喀痰の排出には、叩打法、振動、咳の補助などの肺理学療法を利用する。その他の日常のケアとしては、手洗いを心掛ける、咳をしている人に近づかない、吸入用のネブライザーを清潔に保つ、インフルエンザの予防接種を受けることなどが必要である。

体調の良い時に出来る範囲で運動をすると、肺機能を改善させ、骨量を増やす効果がある。

g. 食事・栄養

CFでは、気道の慢性感染症と咳そうによる消耗が加わって、栄養状態が悪化することが多いので、充分な量の消化酵素製剤を補充して、健常な子供よりも30~50%多いカロリーを摂る必要がある。栄養状態が良好になると肺機能が改善することが知られており、標準的な体格を目指す。通常の食事だけでは十分でない場合には、液体食、中鎖脂肪酸食品などを利用する。また、脂溶性ビタミンを豊富に含む食材を摂ることが勧められる。

h. 予後

CF登録制度事務局(名古屋大学健康栄養医学研究室)には、現在までに99症例(男性49例、女性50例)のデータが蓄積されており、平均生存期間は約21年である。CF治療のための基本的な薬剤(パンクレリパーゼ腸溶剤、ドルナーゼアルファ吸入液、トブラマイシン吸入薬)が一般に使われるようになったため、予後の改善が期待される。

2) 診断

①診断基準

臨床症状、汗試験、CFTR遺伝子検査により診断する。

A. 主要な症候

  1. 膵外分泌不全
  2. 呼吸器症状(感染を繰り返し、気管支拡張症、呼吸不全をきたす。ほとんどの症例が慢性副鼻腔炎を合併する。粘稠な膿性痰を伴う慢性咳嗽を特徴とする。)
  3. 胎便性イレウス
  4. 家族歴
  5. 胆汁うっ滞型肝硬変
  6. 先天性両側精管欠損による男性不妊
  7. 汗への塩分喪失による代謝性アルカローシス

B. 検査所見 汗中塩化物イオン(Cl-)濃度測定

  • 異常高値:60mmol/L以上
  • 境界領域:40〜59mmol/L(生後6ヶ月未満では30〜59mmol/L)
  • 正常:39mmol/L以下(生後6ヶ月未満では29mmol/L以下)
  • 方法:原則として、ピロカルビンイオン導入法で行うが、簡便法(指先汗Cl-試験)で代用できる。(どちらも実施できる施設が限られるので、CF登録制度事務局にご相談ください。)

C. 遺伝学的検査 CFTR遺伝子解析

CFTR遺伝子変異のスペクトルは人種によって大きく異なり、日本人由来のCFアレルの検査には、ヨーロッパ人種用の検出キットは役に立たない。全エクソンのシーケンスとゲノムリアレンジメントの有無の解析が必要である。(CF登録制度事務局にご相談ください。)

[診断カテゴリー]

Definite:下記のいずれか

  • 汗中Cl-濃度の異常高値に加え、特徴的な呼吸器症状を示すもの
  • 汗中Cl-濃度の異常高値に加え、膵外分泌不全、胎便性イレウス、家族歴のうち2つ以上を示すもの
  • 臨床症状のうちいずれか1つを示し、2つの病的なCFTR変異が確認されたもの

Probable:下記のいずれか

  • 汗中Cl-濃度の異常高値に加え、膵外分泌不全、胎便性イレウスのいずれか1つを示すもの
  • 汗中Cl-濃度が境界領域であり、特徴的な呼吸器症状を示すもの
  • 汗中Cl-濃度が境界領域であり、膵外分泌不全、胎便性イレウス、家族歴のうち2つ以上を示すもの
  • 臨床症状のうちいずれか1つを示し、1つの病的なCFTR変異が確認されたもの