概要

1. 概要

先天性肝線維症は胎生期の胆管形成期に形成される胆管板(ductal plate)の形成不全による胆管形成異常と、肝門脈域の線維化が特徴である。肝線維化による門脈圧亢進症に伴う脾機能亢進症状や食道静脈瘤破裂、ならびに胆管炎を主な症状とする。

本疾患に関連し、胆管形成異常による嚢胞化した肝内胆管を主な所見とするカロリ病がある。狭義には組織学的に肝線維化を伴わない場合にはカロリ病と言われ、線維化を伴う場合には先天性肝線維症を合併したカロリ症候群と呼ばれていたが、大部分は肝線維化を伴うことから、現在では先天性肝線維症とカロリ病は同一のスペクトラムに属する疾患であると考えられている。

また、先天性肝線維症は、多発性嚢胞腎やJoubert症候群、Sensenbrenner症候群等に合併することも多いこと。 それらの疾患はその責任遺伝子産物がいずれも細胞表面にある非運動性の一次繊毛(primary cilia)基部のbasal bodiesに局在し一次繊毛の機能に関与していると推測され、繊毛病(cilinopathy)に包括される疾患として分類されている。

2. 病因

胎生8週から肝臓内に胆管の原基となる胆管板と呼ばれる2層の細胞層が門脈域の境界域に形成され、その後に胆管板の一部がapoptosis等を経てremodelingされることにより胆管が形成される。先天性肝線維症では、この過程に異常をきたした結果として、病理学的に遺残胆管が認められる。原因として、胆管上皮細胞に発現している一次繊毛を構成する蛋白であるPKHD1等の異常が指摘されており、一次繊毛の機能異常が胆管形成過程の異常に関与することが推測されている。

3. 症状

主な症状3つに分類される。①肝線維化に伴って認められる門脈圧亢進症状(肝脾腫、食道・胃静脈瘤、脾機能亢進)、②胆管炎(発熱、腹痛、黄疸。おもに嚢胞化した胆管病変を認める症例で起こしうる。)、③合併する他臓器病変による症状(腎不全、肝肺症候群等)。

4. 治療法

A.保存的治療
保存的治療が主体である。門脈圧亢進に伴う脾腫に対しては部分的脾動脈塞栓術をおこなう。食道・胃静脈瘤に対しては、内視鏡的結紮術等をおこなう。
B.外科的治療
慢性肝不全、肝肺症候群、進行した門脈圧亢進症、反復性難治性胆管炎をともなう場合には、肝移植を検討する。腎不全の合併がある場合には、肝・腎の2臓器移植についても検討する必要がある。

5. 予後

肝病変だけの場合には肝線維化が予後を規定するが、線維化進行速度は症例により大きく異なり小児期に肝移植を要する症例も稀ではない。また、合併する他臓器病変の程度にもより、胎生致死に至る症例から、剖検で偶発的に発見される症例までその重症度は多彩である。肝線維化の進行を予測する因子は現状では明らかになっていない。肝病変については肝移植後の予後は良好である。

<診断基準>(仁尾班による)

A. 主要症状および所見

  1. 肝腫大
  2. 門脈圧亢進症(脾腫、吐血、脾機能亢進性血小板減少性紫斑病)
  3. 胆管炎

B. 画像検査所見

  1. 画像検査では、腹部単純CTで肝臓の脳回様変化、腹部超音波検査で肝実質の不均一なエコー輝度が認められる。進行例では、脾腫や門脈圧亢進症に伴う側副血行路の発達が認められる。また、多嚢胞性腎症合併例では腎嚢胞を認める。
  2. 血液検査では、脾機能亢進例において、血小板低下、汎血球減少を認める。
  3. 消化管内視鏡検査では、進行例において食道・胃静脈瘤を認める。

C. 病理所見

  1. 門脈域の線維性拡大
  2. 遺残胆管(ductal plate形成不全に起因する異常な大型胆管の増生)
  3. 門脈域間の太い架橋性線維化(小葉構築は保たれており、中心静脈周囲には線維化を認めず、組織学的には肝硬変とは異なる)
  4. 門脈低形成

D. 鑑別診断

肝腫大や門脈圧亢進症をきたす以下の疾患を所定の診断基準によって除外する。指定難病「肝型糖原病」(告示番号257)、指定難病「原発性硬化性胆管炎」(告示番号94)、指定難病「特発性門脈圧亢進症」(告示番号92)、指定難病「ライソゾーム病」(告示番号19)、バッドキアリ症候群(告示番号91)、ウィルソン病(告示番号171)、ミトコンドリア病(告示番号21)。

<診断方法>

Cが認められ、AおよびBと矛盾せず、Dが除外される症例を本症とする。