概要

1. 概要

ウイルス肝炎、自己免疫性肝疾患などの原因が明らかでない原因不明の肝硬変の存在は、成人領域では肝硬変症の10-20%程度とされており、その原因の多くは非アルコール性脂肪肝炎によるもの(burn out NASH)と考えられている。一方、小児領域では本邦での調査はされておらず、その病態は明らかではない。

2. 原因

小児の原因不明の肝硬変については、その頻度・成因は不明である。一般的な検査方法では診断困難な先天代謝異常症や、ミトコンドリア肝症、Burn out NASHが一定数含まれていると考えられるものの、肝硬変症における、これらの疾患の頻度も不明である。

3. 症状

一般的な肝硬変症の症状を呈するが、原因不明であることから根本的な治療が困難であり、徐々に肝不全に至る、あるいは門脈圧亢進症が問題になると考えられる。Burn out NASHの場合は肥満などメタボリックシンドロームの既往や、先天代謝異常症では肝外症状の存在も想定されるが、原因不明と判断されている症例の多くは特異的な症状に乏しいと思われる。

代償性肝硬変は肝機能が比較的保たれており、自他覚的症状は認めない。

非代償性肝硬変の主要症状は成長障害、易疲労性、低栄養である。身体所見は肝腫大(主に左葉)あるいは肝萎縮、脾腫、手掌紅斑、クモ状血管腫、腹壁皮静脈怒張、女性化乳房、羽ばたき振戦などがある。

4. 治療法

根本的な治療が困難であることから、非代償性肝硬変に準じた治療が行われるが、肝不全、門脈圧亢進症、肝性脳症のコントロールが困難になれば肝移植にならざるをえない。しかし潜在的疾患に伴う合併症が進行した場合は移植時に問題となることや、代謝性疾患であれば親族からのドナー選択を慎重に行う必要がある。

5. 予後

長期的には徐々に肝不全が進行することが多く、予後不良で、最終的には肝移植を余儀なくされることが多い。

<診断基準>

下記 A、B、C をもとに総合的に診断する。

A. 症状

  1. 成長障害、易疲労性、低栄養、全身倦怠感
  2. 肝腫大(おもに左葉)あるいは肝萎縮、脾腫、手粧紅斑、クモ状血管腫、腹壁皮 静脈怒張、女性化乳房、羽ばたき振戦、黄疸、腹水、消化管出血、肝性脳症

B. 検査所見

項目1−3を組み合わせて診断を行う。さらに項目4、5が加われば診断精度が確かなものとなる。

  1. 血液検査以下のいずれかをみることが多い。
    1. 末梢血検査
      血小板10万以下、汎血球減少
    2. 生化学検査
      AST/ALT≧1、血清ビリルビン値上昇、コリンエステラーゼ低下、ZTT・γグロブリン高値、アルブミン3.5g/dL以下、血糖値の異常、アンモニア値の上昇、ICG15分停滞率≧30%
    3. 凝固機能検査
      PT・HPTの低値
    4. 線維化マーカー
      ヒアルロン酸≧200ng/mL、AST to Platelet Ratio(APRI)が2.0以上
  2. 画像検査(超音波、CT、MR)

    以下のいずれかをみる。

    肝辺縁の鈍化、肝左葉腫大、脾腫、側副血行路の存在、鋸歯状又は逆行する門脈血流、肝実質の不均一、肝表面の不整、超音波による肝弾性に関する非侵 襲的マーカーの異常

  3. 上部消化管内視鏡による食道・胃静脈瘤の検出、もしくはhypertensive gastropathyの検出。
  4. 腹腔鏡もしくは開腹所見

    肝辺縁の鈍化、肝左葉腫大、脾腫、側副血行路の存在、肝実質の不均一、肝表面の不整

  5. 組織所見(腹腔鏡下または開腹して得られた検体は偽陰性が少ない)

    小葉構築の改変、再生結節の存在、動脈の発達

C. 鑑別診断

以下を除外すること。

  • 原発性胆汁性肝硬変(指定難病93)を所定の診断基準に照らして除外する。
  • 原発性硬化性胆管炎(指定難病94)を所定の診断基準に照らして除外する。
  • 自己免疫性肝炎(指定難病95)を所定の診断基準に照らして除外する。
  • ウィルソン病(指定難病171)を所定の診断基準に照らして除外する。
  • 胆道閉鎖症(指定難病296)を所定の診断基準に照らして除外する。
  • アラジール症候群(指定難病297)を所定の診断基準に照らして除外する。
  • 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症を肝生検または遺伝子解析の上で除外する。

上記の他、以下を臨床的または特異的検査により除外する。

  • チロシン血症2型(臨床症状、血漿アミノ酸分析)
  • シトリン欠損症(臨床症状、血漿アミノ酸分析、可能な場合に遺伝子解析)
  • ミトコンドリア枯渇症候群(臨床症状、可能な場合に肝組織呼吸鎖酵素活性)
  • 先天性胆汁酸代謝異常症(臨床症状、総胆汁酸値、可能な場合に胆汁酸分析)
  • Wolman病およびコレステロールエステル蓄積症(臨床症状、可能な場合にLAL活性測定)
  • Niemann-Pick病 type C(臨床症状、可能な場合に血清オキシステロール)
  • α1アンチトリプシン欠損症(臨床症状)
  • TJP2異常症(臨床症状、可能な場合に遺伝子解析)