概要
1. 概要
進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(Progressive familial intrahepatic cholestasis; PFIC)は、常染色体劣性遺伝形式をとる先天性の肝内胆汁うっ滞症であり、多くは乳児期(1歳未満)に発症する。発症の原因は、先天的な遺伝子異常で、すべて常染色体劣性遺伝形式あり、PFIC 1型、PFIC 2型、PFIC 3型の3病型に分類されている。PFIC患者さんの65-85%は生後3ヶ月までに発症し、生後3-4ヶ月で掻痒感が顕在化する。掻痒感は極めて強く、難治性であり睡眠障害をもたらす。PFIC1型、PFIC2型とも70-80%が発症時に黄疸を認め、著明な成長障害を伴う。肝の線維化は急速に進み、最終的には遷延性黄疸、胆汁うっ滞は必発であり、肝硬変、肝不全による死亡に至る。PFIC1型、PFIC2型とも胆汁うっ滞性肝障害から肝硬変、肝癌、肝不全による死亡へと進行するが、その進行はPFIC2型の方がPFIC1型よりも早い。PFIC3型は乳児期に遷延性黄疸で発症するものから妊娠中に胆石症などで発症する例まで様々である。最近、血液検査では直接ビリルビン、総胆汁酸およびAST/ALTの高値を呈するが、γGTP値は上昇しない先天性胆汁うっ滞症の原因遺伝子の一つとして、タイトジャンクション構成分子の一つTJP2遺伝子のホモ接合変異例が同定され、OMIMにPFIC4型として登録された。
2. 原因
PFIC1型:責任遺伝子ATP8B1は18q21に位置し、FIC1蛋白をコードする。FIC1蛋白の異常により、肝細胞、小腸細胞において胆汁酸代謝にかかわる核内受容体FXRの発現が低下する。肝でのFXRの低下は、胆汁酸トランスポーターBSEPの発現低下を引き起こし、胆汁分泌を妨げる。
PFIC2型:責任遺伝子ABCB11は2q24に位置し、BSEP蛋白をコードする。BSEP蛋白は肝細胞の毛細胆管膜に発現しており、胆汁への一次胆汁酸(コール酸、ケノデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸)分泌のための主要なトランスポーターである。そのため、BSEP蛋白の異常では、肝細胞から胆管内に胆汁酸を分泌できなくなり、胆汁酸が蓄積し、巨細胞性肝炎を引き起こし、胆汁うっ滞をきたす。肝細胞から胆管内に胆汁酸を分泌できなくなり、胆汁酸が蓄積し、巨細胞性肝炎を引き起こし、胆汁うっ滞をきたす。
PFIC3型:責任遺伝子ABCB4は7q21に位置し、MDR3蛋白をコードする。MDR3蛋白の異常により、胆汁中のリン脂質が不足し、胆汁酸とのミセル形成ができなくなり、胆汁酸の界面活性作用により胆管上皮や胆管細胞の障害をきたすと考えられている。
3. 症状
PFIC1型は、乳児期から遷延性黄疸として発症し、成長障害、肝不全へと進行する。また肝脾腫、著明な掻痒感を呈する。その他、低身長、特異的指趾(stubby fingers)を呈する。FIC1は肝臓のほか、腎臓、小腸、膵臓、蝸牛有毛細胞、膀胱、胃でも発現しているため、胆汁うっ滞性肝障害とともに、肝外症状として下痢や膵炎、難聴をきたすこともある。間欠的に症状を呈する軽症型の存在が知られ、良性反復性肝内胆汁うっ滞症 (benign recurrent intrahepatic cholestasis; BRIC) 1型と呼ばれているが、遺伝子変異と疾患の重症度の相関は知られていない。
PFIC2型はPFIC1型と比して肝不全への進行が早く、若年のうちに肝細胞癌を発症する例も知られている。また早期より肝硬変像を呈する。またPFIC1型と同様に、BRIC2型が存在する。
PFIC3型は日本人ではきわめて稀である。乳児期に遷延性黄疸で発症するものから妊娠中に胆石症などで発症する例まで様々である。
4. 治療法
治療としてはいずれも、ウルソデオキシコール酸、フェノバルビタールの内服と脂溶性ビタミンの補充、必須脂肪酸強化MCTフォーミュラミルク(MCTミルク)が用いられている。ウルソデオキシコール酸は、肝障害予防目的で初期の段階で全ての患児に使用される。また、リファンピシンも一時的に有効であることが多い。掻痒の軽減や病気の進行を遅らせる目的で外胆汁瘻造設術を施行する場合がある。最終的には肝移植の適応となる。PFIC1型では肝移植施行後も小腸吸収不全は解消せず、さらに下痢の悪化やグラフト肝が脂肪肝となるなど必ずしも術後のQOLは良くない。PFIC2に対する肝移植は根治的であるが、BSEP蛋白に対する自己抗体の出現による”再発”の報告がある。
5. 予後
PFIC1型では、肝移植によってい胆汁酸が排泄されるようになると、難治な脂肪性下痢を認め成長障害をきたす。一方、PFIC2型では肝移植後の予後は再発がなければ良好である。BRICでは、無治療で自然軽快することが多いが、長期にはPFICに移行する症例の報告もあり、最近では、連続したスペクトラムと考えられている。
<診断基準>
A. 主要症状および所見
- 遷延する黄疸、白色便、脂肪便
- 肝腫大以上に加え、加齢とともに次の項目が加わる。
- 体重増加不良、低身長
- 著明な掻痒感
- 鼻出血などの出血傾向、貧血
B. 検査所見
- 血液検査所見直接ビリルビン値・総胆汁酸・AST・ALTが高値である。
1型(FIC1病)および2型(BSEP病)ではAST・ALTの高値にもかかわらずγ-GTPが正常もしくは軽度高値、3型(MDR3病)ではγ-GTPは高値である。 - 肝生検で下記の所見が認められる
光学顕微鏡所見:1型では胆汁うっ滞が小葉間胆管よりも毛細胆管でみられやすい。2型では巨細胞性肝炎が特徴的であり、BSEP蛋白が免疫染色で観察されない。早期より肝硬変像を呈する。
電子顕微鏡所見:1型では Byler bile が時に見られる。2型では胆汁は無構造。
C. 鑑別診断
新生児期、乳児期に黄疸を来す疾患として以下の鑑別疾患が挙げられる。
- 胆道閉鎖症
- アラジール症候群
- シトリン欠損症
- ミトコンドリア病
- 先天性胆汁酸代謝異常症
- 敗血症
- TORCH症候群
- 遺伝性高チロシン血症
- ガラクトース血症
- 新生児ヘモクロマトーシス
- 新生児肝炎
D. 遺伝学的検査
遺伝子解析ではATP8B1 (1型)、ABCB11(2型)、ABCB4(3型)の各遺伝子のいずれかに異常を認めることが多い。
E. 参考所見
- PFIC1型では下痢、膵炎、難聴をみることがある。
- PFIC2型は乳児早期に発症し、肝不全へ進行する速度が比較的早い。
- PFIC3型は、発症時期は乳児期に遷延性黄疸で発症するものから妊娠中に胆石症などで発症する例まで様々である。
<診断のカテゴリー>
- A1. 2.の症状があり、さらに3. 4. 5.いずれかがある。B. 3. 遺伝子解析で異常を認める場合を確定例とする。
- Aの症状があるが遺伝子解析を行なわない場合は、 BSEP 染色、Byler bile、γ-GTP値、C. などを参考に臨床診断する。