進行性家族性肝内胆汁うっ滞症

Progressive familial intrahepatic cholestasis (PFIC)

概要

1. 概要

進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(Progressive familial intrahepatic cholestasis ; PFIC)は、乳児期に発症する遺伝性の肝内胆汁うっ滞症である。常染色体潜性遺伝形式をとる疾患で原因遺伝子としてまずはPFIC1-5の5病型がOMIM (Online Mendelian Inheritance in Man)に登録された。PFIC3を除き、血清直接ビリルビン、総胆汁酸及びAST・ALTの高値、γ-GTP値は正常又は軽度高値であることが特徴である。その後、新たにPFIC6からPFIC12までがOMIMから発表された。

症状はいずれも乳児期から慢性肝内胆汁うっ滞による肝脾腫や著明な瘙痒感を呈して進行性の経過をとるが、PFIC1では下痢、膵機能不全、難聴など肝外症状を合併するのに対し、PFIC2及びPFIC4は症状が肝に限局する一方で早期に肝不全が進行し、時に肝細胞癌を発症することが知られている。治療法は利胆剤、脂溶性ビタミン補充などの対症療法が主体で、保存的治療の無効例は肝移植の適応となる。移植後の経過は肝外症状の有無により異なる。PFIC3以降は日本人では稀である。

2. 原因

PFIC1の原因遺伝子はATP8B1であり、typeⅣ P-type ATPase subfamilyのFIC1(familal intrahepatic cholestasis 1)蛋白をコードする。 FIC1蛋白の異常により、肝細胞、小腸細胞において胆汁酸代謝にかかわる核内受容体FXR (Farnesoid X receptor)の発現を低下させる。 肝でのFXRの低下は、胆汁酸トランスポーターであるBSEP(bile salt export pump)の発現低下を引き起こし、胆汁分泌を妨げる。 PFIC2の原因遺伝子はABCB11であり、BSEP(bile salt export pump)蛋白をコードする。BSEPは肝細胞の毛細胆管膜に発現し、一次胆汁酸を毛細胆管腔に分泌させる。 BSEPの異常では、肝細胞から胆管内に胆汁酸を分泌できず、胆汁酸が蓄積し、巨細胞性肝炎、胆汁うっ滞をきたす。 PFIC3の原因遺伝子はABCB4であり、MDR3(multi drug resistance 3 P-glycoprotein)蛋白をコードする。 MDR3蛋白の異常により、胆汁中のリン脂質が不足し、胆汁酸とのミセル形成ができなくなり、胆汁酸の界面活性作用により胆管上皮や胆管細胞の障害を来す。 PFIC4の原因遺伝子はTJP2遺伝子であり、タイトジャンクション蛋白TJP2をコードし、TJP2欠損により毛細胆管の構造異常からPFICが発症する。 PFIC5の原因遺伝子はNR1H4遺伝子であり、FXRをコードし、FXR欠損によりPFICが発症する。 その後新たにPFIC6からPFIC12までがOMIMから発表された。 2023年8月時点で挙げられているPFIC(原因遺伝子(イタリック)、コードされるたんぱく質)は、PFIC6(SLC51A、SLC51AまたはOSTα)、PFIC7(USP53、USP53)、PFIC8(KLF12、KLF12)、PFIC9(ZFYVE19、MPFYVEまたはANCHR)、PFIC10(MYO5B、MYO5B)、PFIC11(SEMA7A、SEMA7A)、PFIC12(VPS33B、VPS33B)である。

3. 症状

PFIC1は、乳児期から遷延性黄疸として発症し、成長障害、肝不全へと進行する。また肝脾腫、著明な瘙痒感を呈する。その他、低身長、特異的指趾(stubby fingers)を呈する。FIC1は肝臓のほか、腎臓、小腸、膵臓、蝸牛有毛細胞、膀胱、胃でも発現しているため、胆汁うっ滞性肝障害とともに、肝外症状として下痢や膵炎、難聴をきたすこともある。血液検査では直接ビリルビン、総胆汁酸及びAST/ALTの高値を呈するが、血清コレステロール、γ-GTP値は上昇しない。肝組織では、胆汁うっ滞が小葉間胆管よりも毛細胆管でみられることが特徴である。電子顕微鏡では毛細胆管内にByler's bileと呼ばれる粗雑な胆汁の顆粒が認められる(PFIC2では胆汁は無構造である)。間欠的に症状を呈する軽症型の存在が知られ、良性反復性肝内胆汁うっ滞症 (benign recurrent intrahepatic cholestasis; BRIC) 1型と呼ばれているが、遺伝子変異と疾患の重症度の相関は知られていない。

PFIC2において原因となるBSEPは肝細胞にのみ発現し肝外症状を来さないが、肝不全への進行は早く、若年の内に肝細胞癌を発症する例もある。血液検査では、直接ビリルビン、総胆汁酸及びAST・ALTの高値を呈するが、γ-GTP値は上昇しない。肝組織では、巨細胞性肝炎が特徴的とされるが、全例で認められるものではない。また早期より肝硬変像を呈する。PFIC1と同様に、間欠的に症状を呈する軽症型の存在が知られ、良性反復性肝内胆汁うっ滞症2型(BRIC2)が存在する。

PFIC3は乳児期に遷延性黄疸で発症するものから妊娠中に胆石症などで発症する例まで様々である。PFIC3ではγ-GTP値も高値を示す。PFIC4、PFIC5とも非常に稀であるが国内において患者が確認されている。

4. 治療法

治療としてはいずれも、ウルソデオキシコール酸、フェノバルビタールの内服と脂溶性ビタミンの補充、必須脂肪酸強化MCTフォーミュラ (MCTミルク)が用いられている。ウルソデオキシコール酸は、肝障害予防目的で初期の段階で全ての患児に使用される。また、リファンピシンも一時的に有効であることが多い。瘙痒の軽減や病気の進行を遅らせる目的で外胆汁瘻造設術を施行する場合がある。最終的には肝移植の適応となるが、PFIC2では根治的であるが、PFIC1では肝移植施行後も小腸吸収不全は解消せず、さらに下痢の悪化やグラフト肝が脂肪肝となるなど必ずしも術後のQOLは良くない。また、肝移植後のPFIC2において”再発”の報告があり、これはレシピエントのBSEPに対する自己抗体の出現によるものであり、本邦でも報告されている。

5. 予後

PFIC1では、FIC1蛋白は肝臓だけでなく腸管など多臓器に発現しているため、肝移植後に胆汁酸が排泄されるようになると、小腸においてFIC1欠損のため胆汁酸を吸収できず、大腸に多量の胆汁酸が流入することにより難治性の下痢を認め成長障害をきたす。一方、BSEP蛋白は肝臓のみに発現しているため、PFIC2では肝移植後の予後は再発がなければ良好である。BRICでは、無治療で自然軽快することが多いが、長期にはPFICに移行する症例の報告もあり、最近では、連続したスペクトラムと考えられている。

<診断基準>

Definite、Probableを対象とする。

A. 主要症状及び所見

  1. 遷延する黄疸、白色便、脂肪便
  2. 肝腫大

以上に加え、加齢とともに次の項目が加わる。

  1. 体重増加不良、低身長
  2. 著明な瘙痒感
  3. 鼻出血などの出血傾向、貧血

B. 検査所見

  1. 血液検査所見
    • 直接ビリルビン値・総胆汁酸・AST・ALTが高値である。
    • 1型(FIC1病)及び2型(BSEP病)ではAST・ALTの高値にもかかわらずγ-GTPが正常又は軽度高値、3型(MDR3病)ではγ-GTP値は高値である。
  2. 肝生検で下記の所見が認められる
    • 光学顕微鏡所見:1型では胆汁うっ滞が小葉間胆管よりも毛細胆管でみられやすい。2型では巨細胞性肝炎が特徴的であり、BSEP蛋白が免疫染色で観察されない。早期より肝硬変像を呈する。
    • 電子顕微鏡所見:1型ではByler's bileが時に見られる。2型では胆汁は無構造

C. 鑑別診断

胆道閉鎖症、アラジール症候群、シトリン欠損症、先天性胆汁酸代謝異常症、新生児ヘモクロマトーシス、ニーマンピック病C型、新生児硬化性胆管炎、ミトコンドリア肝症、ductal plate malformationなどの発生異常、内分泌疾患又は染色体疾患。

D. 遺伝学的検査

  1. ATP8B1 (1型)、ABCB11(2型)、ABCB4(3型)、TJP2(4型)、NR1H4(5型)遺伝子に変異を認める。これらのほか、MYO5B遺伝子の変異も原因遺伝子に含める。

<診断のカテゴリー>

  • Definite: A-1及びA-2を満たし、A-3、A-4又はA-5のいずれかを満たし、D.遺伝学的検査で異常を認めるもの
  • Probable: A-1及びA-2を満たし、A-3、A-4又はA-5のいずれかを満たし、B-1及びB-2を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、D.遺伝学的検査で異常を認めない又は遺伝学的検査未実施のもの
  • Possible: A-1及びA-2を満たし、A-3、A-4又はA-5のいずれかを満たし、B-1又はB-2を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの

<重症度分類>

診断基準を満たすものについて、以下のように分類し、重症度2以上を対象とする。

重症度分類は、以下の重症度判定項目により判定する。

【重症度判定項目】

1. 胆汁うっ滞の状態

  1. 持続的な顕性黄疸を認めるもの。

2. 易出血性

  1. 出血傾向、貧血のうち一つ又は複数を認めるが、治療を要しない。
  2. 出血傾向、貧血のうち治療を必要とするものを一つ又は複数を認める。
  3. 治療に抵抗し、対症療法として輸血を要する。

3. 皮膚瘙痒(白取の痒み重症度基準値のスコア)

  1. 下記表の1程度の痒み
  2. 下記表の2又は3程度の痒み
  3. 下記表の4程度の痒み
皮膚瘙痒(白取の痒み重症度基準値のスコア)
程度 日中の症状 夜間の症状
0
なし
ほとんど、あるいは全く痒みを感じない。 ほとんど、あるいは全く痒みを感じない。
1
軽微
時にムズムズするが、特にかかなくても我慢できる。 就寝時わずかに痒いが、特に意識してかくほどでもない。
よく眠れる。
2
軽度
時には手がいき、軽くかく程度。
一度おさまり、あまり気にならない。
多少、痒みはあるが、かけばおさまる。
痒みのために目が覚めることはない。
3
中等度
痒くなり、人前でもかく。
痒みのためにイライラし、たえずかいている。
痒くて目が覚める。
ひとかきすると一応は眠れるが、無意識のうちに眠りながらかく。
4
高度
いてもたってもいられない痒み。
かいてもおさまらずますます痒くなり仕事も勉強も手につかない。
痒くてほとんど眠れない、しょっちゅうかいているが、
かくとますます痒みが強くなる。

4. 成長障害

  1. 身長SDスコアが-1.5SD以下
  2. 身長SDスコアが-2SD以下
  3. 身長SDスコアが-2.5SD以下

5. 肝機能障害の評価:血液データ及び症状

  1. 血液データ
    1. 下記表の血液検査の中等度異常が1系列のみ認められるもの。
    2. 下記表の血液検査の中等度異常が2系列以上認められるもの。
    3. 下記表の血液検査の高度異常が1系列以上認められるもの。
  2. 症状
    1. 下記表の腹水又は脳症を認めないもの。
    2. 下記表の腹水又は脳症の中等度の異常を認めるもの。
    3. 下記表の腹水又は脳症の高度異常を認めるもの。
検査項目/臨床所見 基準値 中等度の異常 高度異常
血清総ビリルビン
(mg/dL)
0.3~1.2 2.0以上3.0以下 3.0超
血清アルブミン
(g/dL)(BCG法)
4.2~5.1 3.0以上3.5以下 3.0未満
血小板数
(万/μL)
13~35 5以上10未満 6未満
プロトロンビン時間
(PT)(%)
70超~130 40以上70以下 40未満
腹水 腹水あり 難治性腹水あり
脳症 Ⅰ度 Ⅱ度以上

6. 身体活動制限: performance status

  1. 下記表のイに該当するもの
  2. 下記表のウ又はエに該当するもの
  3. 下記表のオに該当するもの
区分 一般状態
無症状で社会活動ができ、制限を受けることなく、発病前と同等にふるまえるもの。
軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの。
例えば、軽い家事、事務など。
歩行やみのまわりのことはできるが、時に少し介助が必要なころもあり、
軽労働は出来ないが、日中の50%以上は起居しているもの。
身のまわりのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、
日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの。
身のまわりのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ、
活動の範囲がおおむねベッド周辺に限られるもの。
重症度判定
  軽快者 重症度1 重症度2 重症度3
胆汁うっ滞 1+ ND ND
易出血性 1+ 2+ 3+
皮膚瘙痒 1+ 2+ 3+
成長障害 1+ 2+ 3+
肝機能・血液データ 1+ 2+ 3+
肝機能・症状 1+ 2+ 3+
身体活動制限 1+ 2+ 3+
  • 重症度判定項目の中で最も症状の重い項目を該当重症度とする。
  • 胆汁うっ滞については、あれば重症度1以上。重症度2以上かどうかは他の6項目の状態によって決定され、必ずしも胆汁うっ滞の存在は必要とはしない。

※診断基準及び重症度分類の適応における留意事項

  1. 病名診断に用いる臨床症状、検査所見等に関して、診断基準上に特段の規定がない場合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状等であって、確認可能なものに限る)。
  2. 治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
  3. なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。