概要
1. 概要
先天性、持続性のインスリン過分泌により症候性の低血糖症をきたす。
2. 原因
持続性の本症は遺伝子異常によるものが多い。およそ半数は膵β細胞上でインスリン分泌の調節を行うATP依存性カリウムチャネルを構成するSUR1, Kir6.2サブユニットの遺伝子異常による。その他は頻度の低い遺伝子異常によるが、遺伝子異常が同定されない例も存在する。
3. 症状
新生児、乳児期に低血糖症状で発症する。低血糖による症状として、発汗、意識障害、けいれんなどがみられる。低血糖は加齢とともに軽快傾向になることが多いが、成人期にも残存することがある。低血糖や、一部は疾患そのものの性質による神経後遺症を残すことがある。また、治療のために膵亜全摘を行った症例ではインスリン依存性糖尿病を高率に発症するほか、膵外分泌機能低下による消化不良症状をきたす。
4. 治療法
高濃度ブドウ糖の持続静注、持続鼻注・胃瘻による血糖維持。内科的治療としてジアゾキサイド内服、オクトレオチド皮下注、グルカゴン静注・皮下注が行われる。反応不良例においては、膵切除が行われる。合併する中枢神経後遺症に対しては、リハビリテーション、生活の介助、けいれん発作時の救急治療のほか、抗けいれん薬の投与が生涯行われる。また、術後の糖尿病を発症した場合には毎日のインスリン投与、合併症に対する治療、急性の高血糖、低血糖に対する治療が行われる。膵外分泌機能低下に対しては消化酵素剤の生涯の内服が行われる。
5. 予後
重症例、管理不良例では神経後遺症の頻度が極めて高い。膵亜全摘を行った症例の多くは加齢にともないインスリン依存性糖尿病を発症する。
<診断基準>
下記の診断基準Iを満たして、高インスリン血性低血糖症と診断されるもののうち、診断基準IIにより他疾患の除外がされたものを先天性高インスリン血症と診断する。
診断基準I
血糖<50 mg/dL時に下記の3基準のうち、
- 2つ以上満たす場合、または1つを満たし、かつ表1の既知の原因遺伝子変異を同定した場合に高インスリン血性低血糖症と確定診断する。
- 1つのみを満たす場合に疑診とする。
●血中インスリン値 | > 1μU/mL |
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●グルカゴン0.5-1mg筋注(静注)による血糖上昇 | > 30mg/dL |
●正常血糖を維持するためのブドウ糖静注量(mg/kg/min) | > 7(生後6か月未満), 3-7(生後6か月以降), > 3(成人), |
※補助的所見として下記の所見が参考になる。
血中3-ヒドロキシ酪酸(β-ヒドロキシ酪酸) | < 2mmol/L (2000μmol/L) |
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血中遊離脂肪酸(FFA, NEFA) | < 1.5mmol/L (1.5mEq/L) |
表1 小児高インスリン性低血糖症の既知の原因(後天性を含む)
先天性(CHI) |
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後天性 |
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AD、常染色体優性遺伝: AR、常染色体劣性遺伝
診断基準II
下記の問診・検査をともに行うことにより後天性の高インスリン血症を除外する。
- 病歴聴取(胃バイパス術、胃食道逆流に対する噴門形成、糖尿病に対するインスリン・経口血糖降下薬治療歴)
- 血中インスリン―Cペプチド比、抗インスリン抗体、膵画像検査(症例に応じて造影CT, 造影MRI, 超音波内視鏡)