概要

1. 概要

先天性門脈欠損症(congenital absence of the portal vein, CAPV)は、血管形成の異常により門脈低形成または欠損をきたし、門脈血流が肝を十分灌流せず門脈体循環短絡をきたすものを指す。Morganは1994年にCAPVをType I、Type IIと分類した[1]。先天性肝外門脈体循環短絡症(congenital extrahepatic portosystemic shunt, CEPS)とほぼ同一でありHowardは1997年にCEPSをType 1(End-to-side)、Type 2(Side-to-side)と分類した[2]。わが国のKobayashiの分類[3]も用いられる。

近年新生児マススクリーニングが普及し、ガラクトース高値を契機に先天性門脈体循環短絡症(congenital portosystemic shunt, CPSS)が見出されやすくなった。CPSSにはCAPVとともに肝内門脈体循環短絡がある。わが国では出生30,000例に1例程度のCPSSがあるとみられている[8]。

2. 原因

CAPVは胎生期の血管形成の異常に起因する。兄弟例の報告もあり、遺伝的因子の関与が想定されている。先天性心疾患や染色体異常(Down症候群など)に本症を合併することがある。

門脈血流が肝を十分灌流しないことが限局性結節性過形成などの肝病変に関係すると考えられている。また、本来肝臓で代謝されるべきガラクトース・アンモニア・肺血管拡張物質などを含む門脈血が、短絡血管を通して体循環に流入することで、長期的に肝性脳症や精神発達遅滞、肝肺症候群、肺高血圧症などの様々な肝外合併症を引き起こす。

3. 症状

CAPVないしCPSSの多くは無症状であり、かつては年余を経て肝性脳症や肝腫瘍から診断される例が多かった。中枢神経症状の発症年齢は乳児から80歳代まで幅が広く、また軽微な症状からの診断は困難である。不明の発達遅滞・多動傾向・食後の意識消失などがシャント閉鎖術後に改善してはじめて症状の一つであったと判明する場合がある。

316例のCPSSを蒐集した報告[9]によると、合併する後天的・機能的な異常として神経症状ないし肝性脳症(35%)、肝腫瘍(26%)、肝肺症候群ないし肺高血圧症(18%)を記載した症例報告が多い。高インスリン性の低血糖、頭痛、脳膿瘍なども知られている。肝腫瘍は限局性結節性過形成(focal nodular hyperplasia)、結節性再生性過形成(nodular regenerative hyperplasia)が主だが肝芽腫も報告されている。

CAPVに合併する先天的・形態的な異常としては先天性心疾患(22%)や染色体の変化(9%)があり、Down症候群、Turner症候群などの報告が目立つ。

肝肺症候群や門脈肺高血圧を合併すると、労作時呼吸困難、バチ状指、チアノーゼなどがみられうる。肝肺症候群でときに座位で悪化する低酸素血症(platypnea, orthodexia)などがみられる。CAPVでは門脈血流不足のために肝は小さく触れにくいことが多い。

血液検査では、機能できる肝細胞があるにも関わらずアンモニア高値・総胆汁酸高値・プロトロンビン時間の延長・軽度の黄疸・軽度のトランスアミナーゼ高値などがみられる。無症状例でも1歳前後より頭部MRIでマンガンの沈着による基底核の高信号を呈する。

4. 治療法

無症状の症例は保存的に観察可能だが、無症状であるとの判定は容易でない。侵襲的治療のリスクと利益を考慮する必要がある。保存的治療では高アンモニア血症のコントロールのためラクツロースやアルギニンなどが使用される。乳児期でガラクトースが10mg/dL以上の場合には白内障予防のためガラクトースの制限をする例がある。

有症状例はシャント閉鎖術を考慮する。外科的閉鎖と放射線学的な閉鎖がある。治療戦略はいまだ開発途上であり、一期的に閉鎖するか、二期に分けるかを、病型、閉塞試験時の門脈圧、腸管の浮腫・色調などで判断することが提案されている[5-7]。かつて閉鎖術によって肝内門脈が未発達である故に門脈圧亢進症をきたさないかという懸念がされたが、多くの例で門脈系が成長し門脈圧は正常に留まり、症状は改善に向かうと判明しつつある。神経症状の改善、肝腫瘍の縮小、肝肺症候群の消失などが報告されている。肝移植を要する例は多くなく、胆道閉鎖症や肝芽腫のような合併症にも影響される。実施時期・対象についての定見はない。

5. 予後

End-to-side型で肺高血圧症、肝肺症候群、重篤な心疾患、胆道閉鎖症などの重篤な合併症を有する例に死亡例がある。無症状の例では予後は良い。稀に血液透析などを機に肝性脳症(猪瀬型)をみる例があり注意を要する。脳膿瘍はときに致命的な経過をたどる。

<診断基準>

A. 症状

  1. 無症状例が多い
  2. (低血糖)頻脈、振戦、発汗など
  3. (肝性脳症)人格の変化、発達障害、多動、昏睡など
  4. (肺高血圧症)低酸素血症、頻脈、多呼吸、労作時呼吸困難など
  5. (肝肺症候群)低酸素血症(ときに座位で悪化)、頻脈、多呼吸など
  6. (脳膿瘍)発熱、頭痛など

B. 必須検査所見

<画像検査>腹部エコー、CT、血管造影で短絡血管の存在および肝内門脈の欠損・低形成の確認

C. 補助的検査所見

  • <血液検査>食後にガラクトース血症、高アンモニア血症、総胆汁酸高値、低血糖がみられやすい。
  • <新生児マススクリーニング>ガラクトース高値のことが多い
  • <ガラクトース代謝酵素検査>ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼなどガラクトース代謝酵素は正常。
  • <画像検査>頭部MRIでの基底核の高信号
  • <画像検査>腹部エコー、CT、MRIで脂肪肝を検出
  • <画像検査>腹部エコー、CT、MRIで肝腫瘍を検出(限局性結節性過形成、まれに肝芽腫)
  • <シンチグラフィ>経直腸門脈シンチグラフィー(99mTcO4、I-123IMP)でのシャント率の高値
  • <生理検査>末梢血酸素飽和度低下
  • <生理検査>心エコーで推定肺動脈圧上昇
  • <シンチグラフィ>肺血流シンチグラフィで肺内シャント率の高値
  • <心臓カテーテル検査>肺動脈圧の上昇・肺血管抵抗の上昇

D. 診断方法

Bの必須検査所見が確認でき、Aの症状と矛盾せず、新生児マススクリーニングでガラクトース高値の場合はガラクトース血症を除外して本症と診断する。

なおCの末梢血酸素飽和度、心エコー推定肺動脈圧は重症度判定の上で必須とする。

参考:鑑別診断

門脈系に解剖学的異常がある場合は以下の疾患を考慮する。

  • 肝内門脈体循環短絡をきたす疾患(肝血管腫・静脈管開存・肝内門脈肝静脈短絡)
  • 肝外門脈閉塞症(EHPVO)
  • 指定難病(告示番号92)特発性門脈圧亢進症
  • 指定難病(告示番号91)バッド・キアリ症候群
  • カロリ病
  • 先天性肝線維症
  • 各種の肝硬変

門脈系に解剖学的異常がある場合は以下の疾患を考慮する。

  • 指定難病(告示番号258)ガラクトース-1-リン酸ウリジルトランスフェラーゼ欠損症(ガラクトース血症(Ⅰ型)
  • ガラクトース血症(Ⅱ型、Ⅲ型)
  • 指定難病(告示番号251)尿素サイクル異常症